2.交通事故をゼロにするには?-あるべき姿の考察-
前回、「1.なぜ交通事故はおきるのか?」で、ファーストステップとして、交通事故の実態を調査、分析しました。
今回は「あるべき姿」を考えます。
あるべき姿とは、本来そうあるべき理想的な状態を指し、理想や長期目標として、ゴールイメージを考察します。
最初にあるべき姿を考えることで、現在とのギャップ、ゴールイメージを明確化することができます。
①あるべき姿に向けた、目的・手段展開
目的は「交通事故がほぼゼロになる」としました。「ほぼ」としたのは、完全にこだわりすぎると細部に入り、本質を見失うためです。
上の図では、目的、目的達成するための手段(そのためにどうする)を展開しています。
以下に解説します。
交通事故をゼロにするためには、「車両が事故をおこさない」こととしました。車両が事故をおこさなければ、多くの人が巻き込まれることもありません。
次に、事故をおこさないためには?の手段を展開していきます。
②リスクを検知し自動制御する
事故をおこさないためには、どうしたら良いでしょうか?
手段のひとつは、「リスクを検知し自動制御する」としました。
この背景には、人間の感覚、判断の危うさがあります。
高齢者はどうしても感覚、判断、反応が低下しますが、年齢に関わらず、薄暮の時間帯、雨の夜など、視覚情報が限定され、判断、反応、が遅れてしまいます。
そんな時、急な飛び出しがあったとしたら...自分は100%大丈夫と言えるでしょうか?
人間は危ういもの。それをICT、デジタル技術で補うべきです。
では、「リスクを検知する」ためにはどうしたら良いでしょうか?
「移動体の位置情報を把握する」としました。
移動体、すなわち道路上の車両、自転車、人の位置情報を、防犯カメラ情報、IOT情報*1を活用し、動きをマップ上にトレースします。
なお、この技術は既に開発が進んでいるようです。
次に、車両を自動制御するために、「移動体を全体、個別に制御する」としました。
具体的には、過去の事故発生パターンを学習したAIにより、リスクを解析し、交通制御(全体制御)、車両制御(個別制御)します。
現在、各メーカーは、衝突回避の安全機能を提供しています。この機能は車載カメラ、センサー情報を基にしていますが、それに、道路上の移動体の情報が取り込めたら、見えないリスクにも対応し、より多くの事故を回避できるでしょう。
例えば、この事故も。
昨年10月に発生した、ドリフターズの仲本工事さんの事故です。
“仲本さんは車の間を縫うように横断、右折レーンを走ってきた車と衝突したとみられている”(記事引用)
この状況から、右折レーンの車にとっては、突然飛び出した仲本さんの姿を視界に捕らえた時点では、既に手遅れだったと思われますが、道路を横断する人をカメラで捕らえ、AI解析、車両制御(緊急ブレーキ)する仕組みがあれば、防げた可能性があります。
③違反、過失を防止する
事故をおこさないための、もう一つの手段は、「違反、過失を防止する」としました。
「リスクを検知し自動制御する」だけでは不十分です。たとえば、AIがリスクを検知しても、車両が速度100キロで暴走していたら制御不可能です。
多くの事故の原因である過失と違反を防止する仕組みを作るべきです。
では、違反、過失を防止するためにはどうしたら良いでしょうか?
手段の一つは、「車両に違反、過失防止機能を装備する」としました。
DB化された交通標識と車両のナビシステムとを連動し、アラートを発動、さらに、逆走等の重大違反時には緊急ブレーキ制御により、事故を未然に防ぎます。
違反、過失を防止するための、もう一つの手段は、「危険運転を記録し取り締まる」としました。
「警察は既に危険運転を取り締まっているでしょう?」と思われるかも知れませんが、実態は、ネズミとりの様な「待ち伏せ」が主で、多くの危険運転は見過ごしにされています。
これでは、捕まる方が運が悪く、不公平感、不満を生むだけです。
たとえば、犯罪行為である「ひき逃げ」でさえも、死亡、重傷事故でなければ、現場に看板を建てるくらいで、なかなか検挙されていないのが現状です。
警察が、軽傷事故に時間を割けない状況はある程度理解できます。そこで、捜査手法を改革すべきと思います。
上の図は捜査手法の改革案です。
現状の待ち伏せ取り締まりから、デジタル情報とAIを活用した捜査手法に改革することにより、捜査の自動化を進め、不公平感を解消します。
たとえば、イギリスでは既に、監視カメラ映像を活用した、交通違反取り締まりを実施し、警察のオペレーションも自動化されています。
また、予防措置、教育に重点を置き、ドライバーの意識改革を図ります。
特に、自転車は免許がなく、交通ルールを知らずに乗っている人が多いため、社会問題になっています。
自転車へのナンバープレート義務化と、防犯カメラ、AIを活用した危険運転の抽出により、常習者の摘発、教育を実施すべきと考えます。
最後に、交通事故ゼロに向けたあるべき姿、目的と手段を再掲します。
この実現には、技術、インフラ、法整備等の課題がありますが、実現可能と考えます。もし実現すれば、重大事故は現在の10分の1以下になると思います。
デジタル化は、日本の大きな課題ですが、交通・警察のような、命、安全に関わる分野は、より重点的、早急に進めていただきたい。と、切に願います。
*1:デジタルナンバープレート等を車両、自転車に搭載する必要があります